合言葉は「世界を変える!」 繊細な電子部品を優しく守る樹脂「バイロショット®」
オー太
「Voice by TOYOBO」第6回は、変幻自在に形を変え、プリント基板や電子部品を優しく保護する低圧成型用ポリエステル樹脂「バイロショット®」を開発した人々の物語です。
ハカセ
「バイロショット®」といえば、高い接着性、耐水性、耐寒性などを兼ね備えたオールマイティなポリエステル樹脂として、今や世界トップシェア(※)を誇っているよね。
カンビー
今やぼくたちの暮らしに欠かすことのできない「バイロショット®」はどのようにして生まれたのか、その秘密を解き明かすべく、開発に携わった3人に集まってもらいました。
フーちゃん
それではレッツゴー!
※自動車向けポリエステル系低圧射出成型用ホットメルト接着剤分野(当社推定)
Index目次
メンバーの紹介
⻄田 光生(にしだ みつお)さん
現職:東洋紡エムシー株式会社 品質保証部
「バイロショット®」開発当時の開発リーダー
高校では相撲部。とにかく馬力があり、粘り強くへこたれない人。海外にも日本酒を持参するほど、大の日本酒好き。
入谷 治(いりたに おさむ)さん
現職:東洋紡エムシー株式会社 経営企画部
「バイロショット®」開発当時の開発担当者
バイロン工業接着グループで接着剤の開発に従事。西田さんのもとで「バイロショット®」の開発、その後、山添さんのもとで営業を担当。元・アイスホッケーの国体選手(滋賀県代表FW)。遊ぶときは遊ぶ、仕事をやるときはやる、メリハリを大切にする男。
※組織名は2024年4月時点
「バイロショット®」は、いかにして生まれたのか?
西田:「バイロショット®」の元となったのは、カップなどのフィルム蓋の接着や、塗料などのコーティング用途に使用する共重合ポリエステル樹脂「バイロン®」という、お客さまが溶剤や熱で溶かして使われるポリエステル素材です。
山添:1999年頃、たまたまお客さまのところで「バイロン®」の接着試験に立ち会っていたとき、隣でプリント基板をナイロン樹脂で封止する試験をやっていて、お話を聞くと浸水による通電不良が起こり、困っておられたんです。このとき、「バイロン®」のようなポリエステル樹脂を使えばなんとかできるかもと、ヒントを得たんです。
西田:お客さまが封止に使われていたナイロン樹脂は、扱いは簡単だけど水を吸水しやすいんですよ。
入谷:かといって、一般的なエポキシ樹脂を使うと、浸水はしないけど、ガチガチに固まって柔軟性が失われるし、封止するまでに時間もかかるんですよね。
カンビー
従来の樹脂にはない、全く新しいオールマイティな機能を持つ樹脂を作る。それが「バイロショット®」の出発点になったんだね。
トータルソリューションを提案する(材料から製品へ)
山添:当時、私たちが扱っていた「バイロン®」はあくまで中間材料。途中にお客さまが入るため、実際の部品を使うお客さまの本当のニーズが分からないというジレンマがありました。
カンビー
材料を提供するのではなく、直接お客さまの望みを満たす製品を作ることで、お客さまにトータルソリューションを提供する。「バイロショット®」はそうした、TOYOBOの新たな挑戦でもあったんだね。
西田:封止される材料は金属もあれば、樹脂であるPET(ポリエチレンテレフタレート)もある。つまり、どんな素材にでも使える樹脂が必要でした。扱いやすく、すぐに固まり、密着性や防水性が高く、しなやかさを失わない。まさにそれは、これまでの常識を覆す挑戦でした。
カンビー
世の中にない全く新しい樹脂を作るって、簡単なことではないよね。
山添:「バイロン®」が誕生したのは、1969年。東洋紡には樹脂設計技術の長い蓄積があり、それは、東洋紡だからこそできた挑戦でした。
入谷:単に従来の材料を混ぜ合わせるのではなく、分子レベルで結合を変えながら、全くゼロから新しい樹脂を作る。とにかく作ってはテストを繰り返し、何十回も作り直しました。
お客さまを探せ!?
カンビー
興味を持ってくれるお客さまは、すぐに見つかったんですか?
山添:樹脂の開発と同時に、どういうお客さまがこの樹脂に興味を持たれるのか、とにかくいろんな場所で展示会を開き、その用途を探るというのを積極的にやりました。
西田:フライパンで樹脂を溶かす実演をしたり、実験機械を展示会場に持ち込んで、お客さまに実際に見て触れて試していただくようにしたんです。
入谷:展示会で興味を持っていただいたお客さまのところに直接機械を持ち込み、デモストレーションを行ったり、とにかくいろんなところへ出かけていきましたね。
前例がなければ、作ればいい
カンビー
具体的にどのようなお客さまにアプローチしたんですか?
山添:開発当時、自動車の電子制御化が加速しており、かなりの数のセンサーなどが搭載されるようになっていました。自動車業界は「バイロショット®」の格好の進出先だと考えたんです。ただ大手の自動車部品メーカーからは、「前例がありますか?」と問われました。
入谷:新しいものを生み出そうというお客さまを見つけるために、お客さまの会社の組織図を書いて、話を聞いていただけそうな方がどこにいらっしゃるか、ということもやっていましたね。
西田:自動車に使う部品は、10年という単位の耐久性が求められるし、マイナス40度~120度といった幅広い温度での使用もクリアする必要がありました。
西田:前例がない新規参入企業ということもあり、実際の基準を大きく超えるようなテストを求められたりすることもあったんです(笑)。
入谷:工場内の機械でテストできる範囲を超えていたので、西田さんと2人で工夫して試験をやって、なんとかクリアしたという思い出もあります。
山添:実績が少なくても、リスクを負っても採用してくれるというお客さまに出会えたのが大きかったですね。
カンビー
そうした困難に立ち向かうモチベーションは何だったんですか?
山添:自動車だと1000万台という単位で安定したニーズがある。普通の部品に比べ、機能材料は値下げの可能性も低い、何か1つでも入り込めば、横のつながりでニーズが広がっていく。どこかで柱を作れば、あとは勝手に転がっていくという自信はありました。
西田:その先に案件がいっぱい生まれるという明確なゴールが見えていて、面白いと思ったし、お客さまと一緒に開発するという楽しさもありました。
入谷:とにかく要求を満たさないといけない、そういう思いでしたね。
カンビー
そうして無事、自動車部品の世界で前例を作ることができたんだね。
山添:ただ、こうした製品はお客さまと運命共同体、うまくいけば喜ばれるし、逆に何かあると信頼を失ってしまう。ドアロックセンサーの封止で不具合が出たことがあって、同じお客さまに部材を納入している東洋紡の他の部隊から、しっかりやってくれと怒られるということもありました。
カンビー
採用が決まっても、苦労が絶えなかったんだね。
西田:製品の性能にバラツキがあるとお客さまに呼び出され、急いで戻り、電子レンジで樹脂を溶かしたりして実験したこともありました。
入谷:ラボでは問題ないけど、お客さまのところではトラブルが出る。お客さまの制御の問題も関わるという難しさもありました。ただトラブルがあると現場に立ち会わせてもらえるので、中が見れるチャンスと捉えていましたね。
西田:お客さまから製品トラブルを指摘された帰りに、よく3人で飲みに行きましたよね。
山添:次回までに改善するようにと言われて、「はい」と言ったけど、どうしたらいいか......。
西田:分析しないことには分からない話なので、明日から考えましょうなんて話していましたね。
入谷:僕だけ残されて、みんな先に帰るなんてこともあったんですよ(笑)。
西田:トラブルがあっても否定的にはならない、なんとかなるだろうという感じでした。
山添:それでも、とにかくマーケットは大きい。この製品で、世界を変えるんだと励まし合っていました。最近では、「バイロショット®」を採用いただいた車部品メーカーで、社長賞を受賞されたようです。
ハカセ
こうして、さまざまな苦難を乗り越えて、樹脂開発から金型製作~試作対応~量産支援までトータルソリューションをお客さまに提供する「バイロショット®」が生まれたんですね。
フーちゃん
今や「バイロショット®」は、自動車のセンサーを始め、多くの部品に採用されているよね。
カンビー
電気自動車など、その用途は今後ますます広がっていくと言えますね~。
振り返って、今思うこと
山添:携わっている人たちの協力があってこそ、続けてこられたと感謝しています。社内だけでなくお客さまの協力もあったからできたこと。今の若い人たちも志を継いでやってくれているし、ほんとにありがたい。
西田:「バイロショット®」が採用されたことで、お父さんは、こんなんやってるんやと分かってもらえる仕事になったのもうれしいことですね。
入谷:もともとメーカーに入った理由が、自分の携わった開発品が世の中に出ていくことだったので、それを叶える仕事を2人が与えてくださったことに感謝しています。
山添:「バイロショット®」が生まれて24年、どんな製品もやり始めて20年ぐらいかかるというのが当たり前の世界。いよいよここからが正念場、会社の柱へとさらに成長してくれることを願っています。
入谷:実は「バイロショット®」という名前は私が考えたんですよ。候補を200個ほど挙げて、その中から選ばれました。
山添:そうそう、今思い出したけど、ヨーロッパでいい名前やと褒められたことがあったわ。
入谷:そんなん初めて聞きましたわ(笑)。
カンビー
今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。このあと、久しぶりに3人で飲みに行くんですか?
西田:それが……山添さんが明日健康診断らしい。
山添:そんなこと言っても、しゃあないやん……。
西田:少しだけなら大丈夫でしょ。
入谷:ハハハハハ(笑)。
ハカセ
今や私たちの暮らしに欠かせない「バイロショット®」には、TOYOBOの挑戦の歴史があったんですね。
フーちゃん
あの苦労があったから、今があるのね。
カンビー
「バイロショット®」の未来は、まだまだここからなんですね、楽しみです!
#今回の撮影場所
東洋紡 総合研究所
滋賀県大津市堅田2-1-1
東洋紡グループの研究開発活動の中心拠点。中長期的な基礎研究や新規事業の創出を担う「コーポレート研究部門」と、各事業に直結した研究開発を行う「事業部研究部門」、医薬品の製造受託をおこなう「大津医薬工場」から成り、持続可能な社会に資する事業を支えるための研究開発を展開し続けている。
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山添 誠司(やまぞえ せいじ)さん
現職:東洋紡株式会社 執行役員 グループ管理総括部
「バイロショット®」開発当時の担当営業
とにかく人当たりが良くて、社外にもファンが多い紳士。好奇心が旺盛で発想が柔軟、いろんなアイデアを製品に注入。ランニングや野球など、体を動かすのが好き。