TOYOBOの未来を作るフェローとは? 〜世界を駆け巡る久保田 冬彦さん~


カンビー
フーちゃんは、TOYOBOにフェロー(※1)と呼ばれている人がいるのを知ってる?

フーちゃん
フェロー?・・・それって役職か何かのこと?

カンビー
そう、高い専門知識や業績を有する人材だけに与えられる、特別な役職のことなんだ。

カンビー
ふ〜ん、でもどうしてフェローという役職を作る必要があったの?

カンビー
これまで役職が上がると、どうしても組織マネジメントの仕事が中心になってしまっていたんだ。
それではせっかく高い専門性を持っていたとしても、活かすことができないよね。

フーちゃん
確かにそれはそうね。

カンビー
そこで、組織をマネジメントすることなく、社内外に通じるような専門性を追求し、事業や会社の付加価値創造に貢献してもらおうとつくったのが、フェローという役職なんだ。

フーちゃん
なるほど〜。

カンビー
そこで今回は、TOYOBOのフェロー・久保田 冬彦さんにお話を聞いてみたよ!
ちなみに、ページトップのニューヨークの夜景は久保田さんが撮影されています。
(※1)フェローは東洋紡グループ従業員約1万人のうち3人(2025年4月1日現在)
Index目次
フェロー紹介

カンビー
久保田さん、こんにちは。今どちらにいらっしゃるんですか?
久保田:おはようございます。今はニューヨークのアパートです。

カンビー
そちらは、朝なんですね。
久保田:はい、朝の7時半です。

カンビー
今日は早朝からオンライン取材にご協力いただき、ありがとうございます。
久保田:いえいえ、よろしくお願いします。

フェローって何?

カンビー
早速なんですが、フェローとはどういう役割を果たす人とお考えですか?
久保田:「組織マネジメントの立場からではなく、高い専門性をもって、事業や会社の付加価値創造に貢献する人」と理解しています。

カンビー
なるほど。
久保田:ただ、自身がその役目を担うこととなり、あらためて自身の専門性とは何かを考えるとともに、身が引き締まる思いでした。

カンビー
久保田さんの専門分野は、どのようなものになるんでしょうか。
久保田:はい、私は入社以来、長らくコーポレート研究所(滋賀県大津市)におりました。

カンビー
コーポレート研究とは、何ですか?
久保田:今、お客様が必要とされている製品というよりも、将来の事業に貢献する新しい技術を生み出すための研究です。

カンビー
久保田さんはそこで、どのような業績を残されたんでしょうか?
久保田:私自身が研究者として開発に関わり、事業になったものは2つあります。1つが有機繊維の中で世界一の強度と難燃性を併せ持つ高機能繊維「ザイロン®」です。
現在では消防服や、コンクリートの補強など、いろんな用途に使われています。

久保田:そしてもう1つが、PET樹脂を作る際に使用される触媒である、GS触媒です。

カンビー
それはどういうものなんでしょうか?
久保田:PET樹脂は、ペットボトルや繊維、フィルム等に幅広く使われる樹脂ですね。PET樹脂を作る際には、触媒と呼ばれるものがごく少量必要になるのですが、この触媒によって得られるPET樹脂の特性が変わります。
例えば、色。近年、ペットボトルは世界的にもリサイクルされることが一般的ですが、GS触媒で作られたPET樹脂は色が白くてきれい、またリサイクルを繰り返しても色が変わりにくいという特長があります(PET樹脂の写真、リサイクルモデル試験の写真参照)。

カンビー
確かに、GS触媒で作られたものは色がきれい、リサイクルされても色が変化しにくいですね。
久保田:これまでPET樹脂の触媒としてはアンチモンなどが主流でしたが、GS触媒はアルミニウムを使用しており、重金属を含みません。

カンビー
リサイクルしやすいPET樹脂が作れて、また環境にも優しい触媒ということですね。
久保田:今や世界中でPET樹脂のリサイクルが進んでいます。PET樹脂自身をよりリサイクルしやすくする新しい触媒、GS触媒は、世界のPET樹脂メーカー、また飲料メーカーなどからも注目されています。

フェローとしての仕事

カンビー
ところで、フェローになった現在は、アメリカでどのような研究をされているんですか?
久保田:実は2022年にフェローになってからは、研究ではなく、技術ライセンスのためのマーケティングをやっています。

カンビー
えっ、そうなんですか?
久保田:先ほどのGS触媒の技術を世界に売っていこうということで、ニューヨークに駐在しながらも、北米のみならず、欧州やアジアのPET樹脂メーカーにプレゼンしています。

カンビー
なるほど、最前線のビジネスマンという訳ですね。
久保田:マーケティングということでは、技術を売るための仕組みづくりから始めて、ライセンス交渉も担当します。

カンビー
それは大変だ〜。

久保田:一方、そういった仕事は全体の半分くらいです。あとは新しい技術や有用なパートナーなどの探索です。
TOYOBO自身で開発するのではなく、例えば将来のTOYOBOの事業につながる革新的な技術をもつスタートアップ企業。そういうものを世界中探して歩くというのも私の仕事です。

カンビー
世界中を飛び回っているという理由がよく分かりました。
久保田:現在まで、フィルムやバイオなどの分野で、10ぐらいのプロジェクトに関わっています。
あらゆることに学びはある

カンビー
フェローになる前には、会社の広報的なお仕事もされていたんですよね。
久保田:はい、2014年からは6年間、コーポレートコミュニケーション部で、IR(投資家対応)や広報、また全社のマーケティング的な仕事もしていました。

カンビー
そうした経験がフェローとしてのお仕事に生かされているんですか!?
久保田:例えばIRにおいては、投資家さんとお話しする機会が年間100回ぐらいありました。

カンビー
え〜、100回ですか・・・
久保田:はい、IRの仕事で投資家さんと面談すると、当社の業績の話に加えて、製品の技術的な背景を理解したいという方も数多くいらっしゃいました。

カンビー
なるほど・・・、そういう意味では打ってつけの人材だったんですね。
久保田:ある投資家さんから言われたことで、今も印象に残っていることがあります。お会いしてすぐに、「私がTOYOBOに注目しないといけない理由をまず説明してください。」と。

カンビー
いきなりですか・・・。
久保田:でもまさに本質なんですよね。今やっているフェローとしての活動ともつながるのですが、まずは相手にとってTOYOBOと話をする価値は何か、いわゆる“Value Proposition”(価値提供)を考えないといけない。これはどんな仕事でも大切なことだと、大きな学びになりました。

カンビー
とても大切なことですね。
久保田:私自身、あらゆるコミュニケーションの場で、“Clear”(明確) 、“Logical” (論理的)、そして“Fair”(公平)の3つが大切だと考えています。中でも特に“Fair”の部分、こちらが言いたいことを言うのではなく、相手の立場になって考え、伝える。先の“Value Proposition”にもつながることですが、そうした公平なコミュニケーションから、Win-Win (双方にメリットが得られる)の関係が生まれるのだと思います。

カンビー
なるほど。
久保田:余談ながら、ニューヨークでの話を1つ。私が通うオフィスビルの近くにべガー(生活困窮者)の方が道に座っておられて、彼の掲げるプラカードに「あなたの犬は、私よりいいものを食べている」と書かれていたんです。

カンビー
それは刺さりますね。
久保田:ニューヨークでは犬を飼っている人が多いんですね。これは、コミュニケーションする相手の共感を得やすいメッセージとして、優れたマーケティングだと思いました。大きな刺激を受けましたね。
考えることが好き

カンビー
広くコミュケーションという意味では、当時広告賞を取られたこともあるとか・・・
久保田:そうなんです。コーポレートコミュニケーション部で企画した広告が「日経サイエンス広告賞」を受賞しました。

カンビー
へ〜、それはすごいことですね。
久保田:もともと技術者でありながら、広告賞に関われたことは誇りに思っています(笑)。


カンビー
また、TOYOBOの技術力をアピールするために、コンセプトカーを作られたこともあるとか・・・。
久保田:はい、未来のクルマには、こんなにTOYOBOの技術や素材が使えるよと、社内で多くの方の協力を得てコンセプトカーを作って提案しました。新聞などメディアで、コンセプトカーに乗っている社長(当時)が紹介されるなど、大きな注目を集めることができました。


カンビー
そうした柔軟な発想は、どこから生まれてくるんですか?
久保田:私はずっと考えていたい人なんです。目の前にハードルがあったとき、どうしたら乗り越えられるかなというのを、どんなときもぼんやりと考えているのが好きなんです。

カンビー
ぼんやりと考えるというのは・・・?
久保田:私は日本でもニューヨークでも散歩をするのが好きなのですが、机に向かって真剣に考えるというのではなく、リラックスした時間にぼんやりと考えを巡らせるという感じです。

カンビー
そうなんですね。
久保田:そうしてフッと浮かんだアイデアが功を奏して、何とかハードルを乗り越えられたときの喜びは、何ごとにも替え難いですね。

カンビー
なるほど〜
久保田:それは研究職であろうと、コミュニケーション職であろうと、フェローになっても、ずっと変わらないことですね。
久保田さんを形作ったもの!?

カンビー
ところで、久保田さんはどんな少年だったんですか?
久保田:小学校時代は、魚釣りと草野球。中学校時代はバスケットボールに没頭していました。

カンビー
スポーツマンだったんですね。
久保田:スポーツが得意というわけではなかったのですが、バスケットボールをしていたときに貴重な経験をしました。

カンビー
どんな経験ですか。
久保田:どういう訳か、バスケットボールだけは自分にあっていたようで、どこからシュートしてもゴールに入る。正面からでも真横からでも、10球投げれば、10球とも入る。


カンビー
それはすごいですね。
久保田:ただ最初からできたわけではなくて、とにかく必死で練習したんです。練習したら報われる、ちゃんと自分を磨けば結果が出る。そういう感覚を中学の時に持てたことは、私の人生に大きな影響を与えたと思います。

カンビー
それが久保田さんの強みになっているんですね。
コミュニケーションスキルの重要性

カンビー
英語を話す機会も多いと思うのですが、学生時代から英語が得意だったんですか?
久保田:得意というより、昔から好きでしたね。

カンビー
英語の何が魅力だったんでしょうか?
久保田:基本は人とつながるのが好き、友達を作るのが好きというのがあって、どうせなら世界中に友達ができると楽しいなと思ったんです。

カンビー
それで英語を・・・。

久保田:仕事で海外に行くと、伝わればいいというだけではなくて、短時間でどうすれば相手を説得できるか、ロジック構成はもちろん、そのための言葉選びも真剣に考える。半分仕事、半分趣味という感じで英語と向き合っていました。

カンビー
趣味でもあるんですね・・・。
久保田:今だに英語の講演を聞くと、いい表現だな、いい説明の仕方だなと思うとそれをメモするクセがありまして、講演の内容より英語が気になってしまうんです(笑)。

カンビー
なるほど〜、それはもう英語マニアと言っていいですね。
久保田:私は漫才が好きなんですが、漫才では最初の「つかみ」が大切と言いますよね。英語で話をする際にも、相手に私の話を聞いてみようと思ってもらえる「つかみ」につながる英語、話題を話そうと心掛けています。

カンビー
それは凄い。
久保田:言葉を通じて相手の国の文化や歴史を知る。それは互いを尊重することにつながります。技術者であろうとどんな職であろうと、人間関係を作る、もっと言えば、この人と一緒に仕事をしたいと相手に思ってもらうために、コミュニケーションスキルを磨くことはとても重要だと考えています。
若者たちへのメッセージ

カンビー
では最後に夢を追う若者たちへ、メッセージをお願いできますか。
久保田:何をやるにせよ、まずは目指す姿、なりたい自分をイメージすること。それを実現するために逆算して、5年後、10年後の成長プランを描くことが、夢の実現には大切なことだと思います。

カンビー
なるほど。
久保田:中国から来た禅の言葉に「啐啄同機」というものがあります。
啐啄同機(そったくどうき)
鳥の雛が卵から殻をつつくのと親鳥が外から殻を割る様子を意味し、互いにタイミングを合わせて協力することで新しい何かが生まれる様子。
久保田:どんな仕事でもどこかで必ずチャンスが巡ってきます。チャンスは何度も来ないし、タイミングを逃がさないためには、日々の努力はもちろん、それを感じ取るアンテナを常に張っておくことも大切です。まさに「啐啄同機」の雛のたとえで言えば、いつか殻が割れる日に向って地道に殻を割る努力を続ける。頑張り過ぎで途中で力尽きることもないように。
若いみなさんにはチャンスをしっかり掴んで、大きく羽ばたいて欲しいと思います。

カンビー
久保田さん、今日はとても貴重なお話、ありがとうございました。


カンビー
フーちゃんは、フェローがどういう人だか分かったかな?

フーちゃん
フェローは、専門分野の最前線でTOYOBOの未来を作っている人なんだね。

カンビー
うん、それは言えるね。

フーちゃん
フェローと呼ばれる人たちが、これからもっともっとたくさん出てくるといいな。

カンビー
そうだね、楽しみだね。
SNS
Share


Voice
by TOYOBOとは
TOYOBOの体温を感じる
現場の「声」をお伝えします
TOYOBOの体温とは、世の中の課題解決に挑むTOYOBOで働く人々の日々奮闘する様子やプライドを持って働く熱意です。 なかなか世の中に出ない製品誕生の裏側から、TOYOBOで働く人々の日々のコミュニケーションや暮らしなど、関係者の体温がこもった「声」をお伝えします。
久保田 冬彦さん
1986年東洋紡績株式会社(現 東洋紡株式会社)入社。
1990年に研究者として渡米。帰国後、ザイロン®やTOYOBO GS Catalyst®(以下「GS触媒」)等の開発を通して、海外メーカー・業界キーパーソンとの関係を構築。
2011年から(2013年まで)TOYOBO AMERICA, INC. (現 TOYOBO U.S.A., INC.) の社長を務める。
その後、コーポレートコミュニケーション部長として、IR(投資家対応)・広報業務を担当。
2020年、リニューアブル・リソース事業開発部長。
2022年よりフェローとしてニューヨーク勤務。